東京地方裁判所 昭和33年(行)98号 判決 1969年6月17日
原告 野上元 外六名
被告 郵政大臣
主文
原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの連帯負担とする。
事実
第一当事者双方の求める裁判
原告は被告が原告らに対し昭和三三年四月二八日付でなしたる解雇の処分はこれを取消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
との判決を求め
被告は主文同趣旨の判決を求めた。
第二請求の原因
原告らはいずれも郵政省職員として勤務中であつたところ昭和三三年四月二八日付で被告郵政大臣より原告らが昭和三三年のいわゆる春季闘争に当つて違法な行為をしたという理由で公共企業体等労働関係法第一八条により解雇の意思表示を受けた。しかしながら右解雇の処分は左の理由により違法の瑕疵を具有するものとして取消を免れないものである。
(一) 公共企業体等労働関係法第一七条は憲法二八条の労働基本権保障の趣旨に違反し無効であり、これを受けた同法第一八条も憲法二八条の労働基本権保障の趣旨に違反する無効なものであり、よつて公共企業体等労働関係法第一七条、第一八条による本件解雇は違法である。
(二) 原告らは昭和三三年のいわゆる春季闘争に際して被告の主張するような何等違法な行為はしていない。よつて被告のなした前記解雇は解雇すべき事由のない解雇として違法である。
(三) かりに被告の主張する如き事実が存するとしても、これをもつて解雇を除く他の懲戒処分に処するならともかく解雇という重い処分に処することは解雇権の濫用に当り本件解雇は違法である。
即ち原告等の属する全逓信労働組合(以下全逓と称す)は公共企業体等労働関係法上団結権、団体交渉権、争議権について多くの制約が加えられており、又その補正措置として公共企業体等労働委員会による斡旋、調停、仲裁の手続が設けられ前記制約に対し組合員の地位の向上を保障する建前がとられているが右委員会が組合の要求について前記保障の建前を貫いて措置をとつたことは皆無であるので全逓は昭和三三年の春季闘争の目標をきめると同時に年々低下してゆく組合員の労働条件の回復のために闘争を続けてきたが、この闘争行為に対し解雇に及ぶことは権利の濫用である。
第三請求原因に対する認否及び反対主張
一、原告らはいづれも郵政省職員として勤務中であつたところ被告は原告らに対し昭和三三年四月二八日付で、原告らが昭和三三年のいわゆる春季闘争に当つて違法な行為をしたという理由で公共企業体等労働関係法第一八条により解雇の意思表示をなしたことは認めるが、その余は否認する。
二、原告らを解雇するに至つた理由は左のとおりである。
(一) 全逓信労働組合(以下全逓と称す)は昭和三三年一月二四日から二六日までの三日間広島市外府中町公民館において第一六回中央委員会を開催し(1)新賃金二、四〇〇円獲得の闘い、(2)最低賃金法制定の闘い、(3)不当処分撤回スト権の闘い、(4)特定局制度撤廃の闘争、(5)退職年金法制定の闘い、(6)要員獲得の闘い、(7)結婚資金の獲得の闘いと以上の闘争目標のほか(8)不合理不均衡の是正、外務員俸給の是正、(9)通勤費の獲得、(10)年休に関する昭和二九年以前の分の取りきめ、(11)薪炭手当の増額等の問題も併せて早期に解決するよう闘いの中で推進する旨決定し、これが実現するために闘争指令第三三号乃至第三五号を全逓闘争委員長名をもつて全逓下部の各級機関に宛て発出(これらの指令は違法行為を内容とするものではない)したがその後引続いて三月七日闘争指令第三六号として
1 各級機関は三月一三日、地区毎に二ケ所を指定し「時間内喰い込み三〇分」の職場大会を実施せよ。
2 各級機関は三月一三日一斉に(一項に指定された支部を除く)時間外に職場大会を実施せよ。
を発し
又三月一七日闘争指令第三七号として
1 各級機関は三月一九日全国一斉に時間外職場大会を開催し関係当局に要請文を打電せよ。
2 各級機関は三月二〇日左に指定する支部の「時間内喰い込み二時間」の職場大会を実施せよ。
を発し
更に三月二二日闘争指令第三八号として
1 各級機関は三月二七日左に指令する支部の「時間内喰い込み二時間」の職場大会を実施せよ。
2 各級機関は四月二日全国一斉に時間外職場大会を開催し関係当局に要請文を打電せよ。
を発した。
(二) そこで被告は、右指令が発せられた都度被告名を以て警告を発し組合の右の様な行動は郵便法第七九条に抵触し公共企業体等労働関係法第一七条で禁止されているものであるから、この違法な戦術を行使するにおいては厳重な処分をもつてのぞまざるをえない旨通告したが前記指令第三六乃至第三八号は実施された。
(三) 右指令第三六号乃至第三八号の発出の結果勤務時間内に喰い込む職場大会を実施した局所は多数にのぼり、しかも勤務すべき者が右大会に多数参加した結果、郵政事業の業務の運営は極度に阻害された。
業務阻害の事実は
1 指令第三六号が発せられた結果
(イ) 同指令第一項により各地区本部の指定した各支部は別紙第一の表の通り滝川郵便局支部以下九五支部で、実施局所数は九五局である。但し群馬県富岡郵便局は省側の措置により実施不能となり山梨県石和郵便局は勤務時間外に実施した。
(ロ) 勤務すべき者で参加した者の数は九、〇七三名で右人員の外二七名がピケにより入局を阻止され不就労となつた。
(ハ) 喰い込み時間は最高、福岡県後藤寺郵便局が四〇分、最低千葉県松戸郵便局が六分である。
(ニ) 郵便物停滞数は(I)内務未処理数(郵便物の差出「発送」未済及び到着郵便物の処理未済等)通常郵便が三五五九通、小包郵便が一個であり(II)外務出発遅延(配達担当者が定められた時刻より遅れて出発したことを言う)通常郵便物が一二九、六五六通、小包郵便が四〇一個である。
2 指令第三七号が発せられた結果
(イ) 同指令第二項により指定された各支部は別紙第二表の通り札幌郵便局支部以下五七支部で、実施局所数は五七局である。但し茨城県日立郵便局は勤務時間外に実施した。
(ロ) 勤務すべき者で参加した者の数は一二、〇一四名で右人員の外八五〇名(非常勤三〇名を含む)がピケにより入局を阻止され不就労となつた。
(ハ) 喰い込み時間は最高東京中央郵便局が三六〇分、最低茨城県水戸郵便局が一〇分である。
(ニ) 郵便物停滞数は(I)内務未処理数、通常郵便が一、六二九、三二五通並びに郵袋四五九個で小包郵便が七一、八〇一個並びに郵袋八八二個であり、(II)外務未処理数(配達すべき郵便物であつて配達未了となつた数)通常郵便が一、四一五、五五八通で小包郵便が二三、二九八個である。
(ホ) そのうち三月二〇日の東京中央郵便局における業務阻害については
(I) 勤務すべき者で参加した者の数は一、三七〇名である。
(II) 喰い込み時間は最高、三六〇分で最低七五分である。
(III) 郵便物停滞数は内務未処理数、通常郵便が一、三〇八、〇七八通で小包郵便が六八、〇〇〇個であり外務未処理数通常郵便が八五、八〇〇通で小包郵便が一、二三五個である。
3 指令第三八号が発せられた結果
(イ) 同指令第一項により指定された各支部は別紙第三表の通り小樽郵便局支部以下九五支部で実施局数は九五局である。但し愛知県豊橋郵便局は勤務時間外に実施した。
(ロ) 勤務すべき者で参加した者の数は八、二五三名で右人員の外三五名(非常勤一五名を含む)がピケにより入局を阻止され不就労となつた。
(ハ) 喰い込み時間は最高群馬県伊勢崎郵便局が三〇〇分、最低群馬県高崎郵便局が九分である。
(ニ) 郵便物停滞数は(I)内務未処理数通常郵便が一三四、六五四通並びに郵袋二七二個、小包郵便が三、三二八個並びに郵袋二個であり(II)外務未処理数(配達すべき郵便物であつて配達未了となつた数)通常郵便が九二五、七六五通で小包郵便が一四、二三六個である。
4 郵便貯金及び簡易生命保険等の業務阻害については前記三回にわたる指令の結果総数において三〇、二五二名の不就労者を出しこの中には郵便貯金、簡易生命保険等の業務に従事すべき多数の人員が包含されているから右業務運営に相当なる阻害のあつたことが窺知される。
又中央郵便局における不就労者数は一、三七〇名であるからこれも右と同様である。
(四) 原告らの責任
1 原告野上は昭和三二年五月より全逓の中央執行委員長として組合の業務に従事中のところ昭和三三年三月春季闘争と称し中央闘争委員長に選任され組合の組織上の最高責任者として右指令を発出した中央闘争委員会に出席しその決議に参加し同組合傘下の各級機関に宛て他の原告ら(但し原告大沢をのぞく)と共謀して同年三月七日以降同年三月一二日迄の間に実力行使を内容とする違法な前記闘争指令を自己名義をもつて発し更に同組合中央執行委員を各地に派遣し同年三月一三日より同月二七日までの間各地の局所において勤務時間内の職場大会を強力に実施せしめ多数の職員をこれに参加させ、よつて業務の正常な運営を著しく阻害した。
2 原告高柳、同宝樹は昭和三二年五月より全逓の各副中央執行委員長として組合の業務に従事中のところ、闘争期間中は中央闘争委員に選任され組合の組織上の指導者として他の原告ら(但し原告大沢をのぞく)と共謀し実力行使を内容とする違法な闘争の企画並びに決定に参画して右指令を発した中央闘争委員会に出席してその決議に参加しこれを実施するために同組合傘下の各級機関に宛て前示三回の闘争指令を発するに到らしめる等して前示期間中に各地の局所において勤務時間の職場大会を強力に実施せしめ多数の職員をこれに参加させ、よつて業務の正常な運営を著しく阻害した。
3 原告大出は全逓の中央本部書記長、同下村は同中央本部執行委員として昭和三二年五月よりそれぞれ組合の業務に従事中のところ闘争期間中は中央闘争委員に選任され組合の組織上の指導者として他の原告等(但し原告大沢をのぞく)と共謀して実力行使を内容とする違法な闘争の企画並びに決定に参画して右指令を発した中央闘争委員会に出席してその決議に参加しこれを実施するために同組合傘下の各級機関に宛て前示三回の闘争指令を発するに到らしめる等して前示期間中に各地の局所において勤務時間内の職場大会を強力に実施せしめ多数の職員をこれに参加させ、よつて業務の正常な運営を著しく阻害した。
4 原告外山は昭和三二年五月より全逓の中央本部執行委員として組合の業務に従事中のところ、闘争期間中は中央闘争委員に選任され組合の組織上の指導者として他の原告ら(但し原告大沢をのぞく)と共謀して実力行使を内容とする違法な闘争の企画、並びに決定に参画して右指令を発した中央闘争委員会に出席してその決議に参加し、これを実施するために同組合傘下の各級機関に宛て前示三回の闘争指令を発するに至らしめ、更に自ら同年三月二〇日東京中央郵便局に臨局して原告大沢と共謀し同局管理者の制止にもかかわらず勤務時間中の多数の同局職員をして長時間に亘り職場を放棄せしめる等極めて強力にこれを実施して多数の同局職員を参加せしめ、よつて業務の正常な運営を著しく阻害した。
5 原告大沢は昭和三二年七月より全逓の関東地方本部書記長の役職に従事中のところ同組合地方本部の指導者として自ら同年三月二〇日東京中央郵便局に臨局し原告外山と共謀して同局職員を長時間にわたり職場を放棄せしめる等して職務を怠らしめ、よつて業務の正常な運営を著しく阻害した。
(五) 原告らの前示各行為は公共企業体等労働関係法第一七条に抵触するので同法第一八条に則り原告らを解雇したものである。
第四被告の反対主張に対する原告らの認否
被告の主張事実中原告らが全逓信労働組合に於て被告主張の役職にあること、全逓が昭和三三年一月二四日から二六日までの三日間広島市外府中町公民館で第一六回中央委員会を開催し、被告主張のとおりの闘争目標を決定し、闘争指令第三三号乃至第三五号を発したほか被告主張のとおり三月七日闘争指令第三六号、三月一七日同第三七号、三月二二日同第三八号を発し原告野上、同高柳、同宝樹、同大出、同下村、同外山は右指令を発出した中央闘争委員会に出席したこと、警告書を受けたことは認めるがその余の事実は全て否認する。
第五証拠<省略>
理由
一、原告らはいづれも郵政省職員として勤務中であつたところ、被告は原告らに対し昭和三三年四月二八日付で原告らが昭和三三年のいわゆる春季闘争に当つて違法行為をしたという理由で公共企業体等労働関係法第一八条により解雇の意思表示をなしたことは当事者間に争いがない。
成立に争いのない乙第一ないし第七号証の各一、二によれば原告野上に対する免職処分の理由は「原告野上は千葉郵便局勤務のものであるが昭和三二年五月より全逓信労働組合中央執行委員長として組合の業務に従事中のところ、昭和三三年三月春季闘争と称し組合の組織上の最高責任者として同組合傘下の各級機関に対し違法な闘争指令を発出し更に同組合執行委員を各地に派遣し昭和三三年三月一三日より同月二七日までの間各地の局所において勤務時間中のいわゆる職場大会を強力に実施せしめ多数の職員をこれに参加せしめて業務の正常な運営を著しく阻害し公衆に多大の迷惑を及ぼしたたものである」というにあり、原告高柳、同宝樹、同大出、同下村に対する免職処分の理由は「原告高柳は佐賀県中原郵便局勤務の者であるが昭和三二年五月より全逓信労働組合副中央執行委員長として組合の業務に従事中のところ、原告宝樹は浅草郵便局勤務のものであるが、昭和三二年五月より全逓信労働組合副中央執行委員長として組合の業務に従事中のところ、原告大出は鶴見郵便局勤務のものであるが昭和三二年五月より全逓信労働組合本部書記長として組合の業務に従事中のところ、原告下村は貯金局勤務のものであるが昭和三二年五月より全逓信労働組合中央執行委員として組合の業務に従事中のところ、いづれも昭和三三年三月春季闘争と称し組合の組織上の指導者として違法な闘争の企画ならびに決定に参画し、これを実施するため同組合傘下の各級機関に対し違法な闘争指令を発出するに至らしめる等して昭和三三年三月一三日より同月二七日までの間各地の局所において勤務時間内のいわゆる職場大会を強力に実施せしめ多数の職員をこれに参加せしめて業務の正常な運営を著しく阻害し公衆に多大の迷惑を及ぼしたものである。」というにあり、原告外山に対する免職処分の理由は「同原告は柏崎郵便局勤務のものであるが昭和三二年五月より全逓信労働組合中央執行委員として組合の業務に従事中のところ、昭和三三年三月春季闘争と称し組合の組織上の指導者として違法な闘争の企画ならびに決定に参画し同組合傘下の各級機関に対しこれが実施の指令を発出するに至らしめ更に自ら昭和三三年三月二〇日東京中央郵便局に臨局して同局管理者の制止にもかかわらず勤務時間中の多数の同局職員をして長時間にわたり職場を放棄せしめる等きわめて強力にこれを実施して多数の同局職員を参加せしめ業務の正常な運営を著しく阻害し公衆に多大の迷惑を及ぼしたものである。」というにあり、原告大沢に対する免職処分の理由は「同原告は東京中央郵便局勤務のものであるが昭和三三年七月より全逓信労働組合関東本部書記長の役職に従業中のところ同組合地方本部の指導者として自ら昭和三三年三月二〇日東京中央郵便局に臨局して同局管理者の制止にもかかわらず、勤務時間中の多数の同局職員を長時間にわたり職場を放棄せしめる等して職務を怠らしめ業務の正常な運営を著しく阻害し公衆に多大の迷惑を及ぼしたものである。」というにあることが認められる。
二、そこで原告は被告が右免職処分をするについて適用した公共企業体等労働関係法第一七条、第一八条は憲法第二八条の労働基本権保障の趣旨に違反し無効である旨主張するが同条が憲法第二八条に違反しないことは既に最高裁判所の判例(昭和四一年一〇月二六日大法廷判決)の示すところであり当裁判所も右判例と同一の見解をとるものであるので原告らの右主張は採用しない。
三、原告らは前記免職処分理由に該当するような何らの行為はしていない旨主張するので右処分理由について判断する。
(一) 全逓信労働組合が昭和三三年一月二四日から二六日にかけて三日間広島市外府中町公民館で第一六回中央委員会を開催し(1)新賃金二、四〇〇円獲得の闘い(2)最低賃金法制定の闘い(3)不当処分撤回スト権の闘い(4)特定局制度撤廃の闘争(5)退職年金法制定の闘い(6)要員獲得の闘い(7)結婚資金の獲得の闘いという闘争目標を決定し闘争指令第三三号ないし第三五号を発したほか、同年三月七日闘争指令第三六号を同月一七日同三七号を、同月二二日同三八号を発したことは当事者間に争いない。
(二) 右闘争指令第三六号ないし第三八号の内容
成立に争いのない乙第八ないし乙第一〇号証によれば闘争指令第三六号は「1各級機関は三月一三日地区毎に二カ所を指定し『時間内喰い込み三〇分』の職場大会を実施せよ、2各級機関は三月一三日一斉に(一項に指定された支部を除く)時間外に職場大会を実施せよ、」、闘争指令第三七号は「1各級機関は三月一九日全国一斉に時間外の職場大会を開催し関係当局に要請文を打電せよ、2各級機関は三月二〇日左に指定する支部の『時間内喰い込み二時間』の職場大会を実施せよ」、闘争指令第三八号は「1各級機関は三月二七日左に指令する支部の『時間内喰い込み二時間』の職場大会を実施せよ、2各級機関は四月二日全国一斉に時間外職場大会を開催し関係当局に要請文を打電せよ。」という後に述べるいわゆる職場大会戦術を内容とするものであることが認められる。
(三) 右闘争指令が発出されるに至つた経緯
前掲乙第八ないし第一〇号証に成立に争いのない甲第二号証、証人国安孝、同田上武治の各証言並びに原告下村義美本人尋問の結果によれば次の事実が認められる。
全逓信労働組合は労働争議中の闘争戦術として昭和三一年までは定時出退庁戦術とか、あるいは有給休暇を利用する休暇戦術を採用していたところ、公共企業体等労働関係法の適用を受ける団体である国鉄労働組合、国鉄動力車労働組合が昭和三〇年度当時から勤務時間内において職場大会を開催するという戦術(以下職場大会戦術という)を採用しており全逓信労働組合も昭和三一年度年末闘争においても職場大会戦術がとられたが途中にして中止された。
そこで全逓信労働組合執行委員会は昭和三三年度より組合の組織行動として職場大会戦術を採用すべく昭和三二年日光市内において開催された全逓信労働組合全国大会にこれを提案し右大会で承認を受けた。
そこで昭和三三年の春季闘争に際し昭和三三年一月末に広島市外府中町公民館で中央委員会が開催され同年の春季闘争の目標(この点は当事者間に争いないこと、さきに述べたとおりである)と具体的な戦術としての職場大会戦術が中央委員会で決議され、全逓信労働組合中央執行委員会は同委員長名で賃上等の要求書を被告に対して提出し団体交渉に入るとともに、昭和三二年一二月二八日被告を相手方として公共企業体等労働委員会に昭和三三年四月以降の賃金引上げに関する調停の申請をなし調停委員会は一一回にわたり会議を開催し当事者双方から事情を聴取し関係資料等の検討を行つて処理につとめたが調停案作成が結論に至らないまま昭和三三年三月二七日調停は打切られ、同日労働大臣より仲裁請求が行われた。そこで全逓信労働組合執行委員会は右全国大会並びに中央委員会の決議にもとづき右調停仲裁と併行して前記闘争指令第三六ないし第三八号を発し中央闘争委員長野上元名義で各級機関に対し通達し、更にオルグを派遣したものであるが右指令を発した理由は次のとおりである。
(1)「新賃金に関する第五回調停委員会は三月六日終了し一三日より調停委員三者間の協議に入ることになつた。一方特定局制度撤廃に対する闘いは三月三日から五日まで本省に坐り込み動員をかけその解決を迫つたが当局は官憲を多数動員し弾圧を加えてきた。そのため官憲と組合員との間に激闘する場面にまで発展事実上交渉に入ることが不可能になつた。本部はこの事態に対処するため種々検討した結果七日以降大臣交渉を行い交渉を進展させながら今次春闘でねばり強く闘うことを決定した。以上の情勢のなかで総評第八回幹事会第四回ストライキ委員会、公労協戦術会議は第二次の統一行動を三月一三日と確認各単産が階級的連帯の強いきづなに結ばれ今次春闘をねばり強く闘い発展せしめることを決定した。この事態に対処し自らの要求解決のため」という理由で闘争指令第三六号を、(2)「新賃金最低賃金法の制定、権利闘争を統一目標とした今次春闘は炭労、私鉄公労協を中心として決戦段階に突入した中央闘争委員会は更にこの闘いを強化し組織最大の力を結集して第一六回中央委員会決定にもとづく要求事項の解決をはからんとする」ためという理由で闘争指令第三七号を、(3)「総評の春闘は決戦の段階にきた、すなわち私鉄は中山あつせん案を拒否し二三日、二七日全面スト炭労は私鉄、合化公労協とともに決戦する構えを打出している、一方公労協は二二日戦術会議を開き炭労、私鉄合化の全面スト突入の時期に最大の闘いを組織することを決定した」という理由により闘争指令第三八号を発出したものである。
(四) 右闘争指令が発出された結果
成立に争いのない乙第一一ないし第一三号証証人松田馨、同安藤保正の証言により真正に成立したと認められる乙第一四ないし第二三号証並びに証人松田馨、同安藤保正の各証言によれば次の事実が認められる。
被告郵政大臣は右闘争指令が発出されたことに対し全逓信労働組合中央執行委員長宛昭和三七年三月一二日、同月一八日、同月二六日付でそれぞれ右職場大会戦術の行使は即刻中止するよう、さもないと右戦術の実施に指導的役割を果したものはもちろん職場大会に参加した個々の職員についても関係法令にてらして厳重な処分をもつてのぞまざるをえないしまた郵便法第七九条にも抵触するのでその責任を追及されることがあるという趣旨の警告書が発せられたが右闘争指令は実施され、その結果別表四ないし六のとおり時間内くい込み職場大会が実施され郵便物等の停滞を生じ郵政事業の業務の運営を阻害したものである。
右のうち闘争指令第三七号にもとづく別表五3の東京中央郵便局における状態について細かく述べると次のとおりである。前掲乙第一六号証、証人安藤保正の証言によれば原告外山、同大沢は昭和三三年の春闘に際し東京中央郵便局における争議にいわゆるオルグとして派遣され右争議の指導者として同年三月二〇日午前八時頃より全逓信労働組合東京中央郵便局支部の組合員を日比谷音楽堂・楠公銅像前・大手町野球場の三ケ所において開かれた勤務時間くい込み職場大会に参加せしめるため同日午前二時半頃中央郵便局に宿直勤務中もしくは休憩仮眠中四百数十名の組合員を説得もしくは起床せしめて文京区本郷所在の某旅館二ケ所に連行して職場離脱させて同日午前八時頃開催の右職場大会に参加させた。そのため前記別表五の通りの業務阻害を生ぜしめたことが認められる。
(五) ところで被告は闘争指令第三八号が発出された結果仙台郵政局管内の平郵便局、東京郵政局管内の神奈川郵便局、銚子郵便局、船橋郵便局、名古屋郵政局管内の浜松郵便局、富士郵便局、豊橋郵便局、金沢郵政局管内の小松郵便局、大阪郵政局管内の田辺郵便局、広島郵政局管内の福山郵便局、熊本郵政局管内の杵築郵便局、都城郵便局において、それぞれ勤務時間内くい込み職場大会が実施され郵便物等の停滞を生じ郵政事業の業務の正常な運営を阻害された旨主張するが右主張を認めるに足りる証拠はない。
(六) 原告らの責任
1 原告らの全逓信労働組合における役職
原告野上は昭和三二年五月より全逓信労働組合の中央執行委員長として組合の業務に従事中のところ昭和三三年三月の春季闘争に際し中央闘争委員長に選任されたこと、原告高柳、同宝樹は昭和三二年五月より全逓信労働組合の各副中央執行委員長として組合の業務に従事中のところ右闘争期間中は中央闘争委員に選任されたこと、原告大出は全逓信労働組合の中央本部書記長、同下村、同外山は同中央本部執行委員として昭和三二年五月よりそれぞれ組合の業務に従事中のところ右闘争期間中は中央闘争委員に選任されたこと、原告大沢は昭和三二年七月より全逓信労働組合関東地方本部書記長の役職に従事していることは当事者間に争いない。
2 原告野上、同高柳、同宝樹、同大出、同下村、同外山の各責任
そしてさきに認定した闘争指令第三六号ないし第三八号は勤務時間内くい込み職場大会の実施を骨子とするものであり右職場大会戦術は昭和三二年日光市内における全国大会で組合の組織行動として承認されたものとはいえ後に述べるとおりこれを企画し全国大会に提案したのは中央執行委員会である。又昭和三三年一月二四日から二六日にかけての広島市外府中町公民館での第一六回中央委員会で闘争目標が決定されたことは、さきに認定したとおりである。
証人国安孝、同田上武治の証言、原告下村義美本人尋問の結果によれば全逓信労働組合は昭和三三年の春季闘争に際し中央闘争委員会を構成し中央執行委員会並びに中央闘争委員会は前記職場大会戦術を企画立案して右全国大会に提案し同大会及び中央委員会の決議にもとづきさきに認定したとおりの事情を理由として各闘争指令を発出して中央執行委員長名義で各級機関に通達し更にオルグを派遣していることが認められ、原告野上、同高柳、同宝樹、同大出、同下村、同外山は右闘争指令を発出した中央闘争委員会に出席していたことは当事者間に争いのないところである。
以上認定の事実を綜合すれば右闘争指令により勤務時間内くい込み職場大会が実施され、その結果右大会に参加するために職場離脱が行われ、これに伴う郵便物不取扱により郵政事業の業務の運営を阻害することが明らかに予知しうるものであるからこれらの行為は公共企業体等労働関係法第一七条第一項にいう業務の正常な運営を阻害する争議行為に当り原告野上、同高柳、同宝樹、同大出、同下村、同外山はいづれも全逓信労働組合の最高責任者として又は指導者としてこれが右争議行為を企画立案して各級機関に右指令を発出したもので公共企業体等労働関係法第一七条第一項にいう右争議行為を共謀しそそのかしたものというべきである。
3 原告外山、同大沢の責任(原告外山については右1に述べたほか)
原告外山、同大沢は東京中央郵便局にいわゆるオルグとして派遣され右郵便局に臨局してその争議の指導者として職場放棄せしめたことはさきに認定したとおりであるから公共企業体等労働関係法第一七条、第一項にいう業務の正常な運営を阻害する行為を共謀し又はあおり自らなしたものというべきである。
四、ところで原告は公共企業体等労働関係法上団結権、団体交渉権、争議権について多くの制約が加えられた補正措置として設けられた公共企業体等労働委員会のあつせん、調停仲裁がその実績を上げていない現在前記認定の原告らの行為につき解雇という重い処分に処することは解雇権の濫用にあたり違法である旨主張するのでその点について判断する。
成立に争いのない甲第一ないし第五号証によれば全逓信労働組合は郵政大臣を相手方として公共企業体等労働委員会に昭和三二年二月九日「昭和三二年一月以降基準賃金を一人平均二三〇〇円引上げること、最低保障について基準賃金を一八才八七〇〇円とすること」について、更に昭和三二年一二月二八日「昭和三三年四月以降の基準賃金を一人平均二、四〇〇円引上げること、最低保障賃金として新制高校卒一八才の初任給を八七〇〇円とすること」について、昭和三五年三月二六日「組合員の賃金を一律三〇〇〇円引上げること、最低賃金を一八才一〇九〇〇円とすること、俸給体系を改定すること」についてそれぞれ調停の申立がなされ、右昭和三二年二月九日申請の分については調停案が作成されたが相手方側の拒否と郵政大臣よりの仲裁申請により仲裁事件とし処理されるに至り仲裁裁定として一般公務員及び民間の場合との均衡等を考慮した上「昭和三二年四月以降の基準内賃金(職員俸給、扶養手当、勤務地手当)は昭和三二年度基準内予算単価について一二〇〇円(職員俸給において約一一一〇円)を増額した金額の範囲内で労使協議の上決定実施すること、2右協議にあたつては現行平均賃金すなわち実行単価の水準が実現されるに至つた経緯並びに事業経営の将来の見透し等各般の事情を十分に考慮すること、3最低賃金の要求についてはその趣旨は了解されるところもあるが特にここで裁定することの必要は認められない」が出されたこと、昭和三二年一二月二八日申請の分については調停案作成の結論に至らず三月二七日調停は打切られ同日労働大臣より仲裁申請がなされ、仲裁裁定として「1昭和三三年四月一日以降の賃金については本年一月現在の基準内賃金の一パーセント相当の金額を源資として初任給の引上げとこれに伴う給与体系の是正を行う、2右源資の配分については第一項の趣旨に従つて労使両当事者の協議によつてきめる」が出され、昭和三五年三月二六日申請の分については調停案が出されたが相手方の受諾拒否と全逓信労働組合よりの仲裁申請により仲裁に移行し仲裁裁定が出されたこと、公共企業体等労働委員会としては公正な立場より慎重な調査をした結果調停仲裁がなされていることが認められる。
そして原告らのさきに認定した各行為並びにこれによる郵政事業の業務運営の阻害の事実よりすれば公共企業体等労働関係法第一八条による解雇処分もやむを得ないもので解雇権の濫用には当らないというべく全逓信労働組合が公共企業体等労働委員会の調停仲裁に不満だからといつて同委員会がその機能を十分に発揮していないとはいえず又これを認めるに足る証拠もないので結局原告らの右主張は採用しない。
五、以上認定のとおり原告らの主張はいずれも採用し難く、したがつて被告が原告らに対してなした公労法第一八条による前記認定の解雇処分は違法の点はないといわなければならない。
六、よつて原告らの請求はいずれも理由がないのでこれを棄却し訴訟費用の負担については行政事件訴訟法第七条民事訴訟法第八九条第九三条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 浅賀栄 真船孝允 西村四郎)
(別紙省略)